大判例

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福岡地方裁判所久留米支部 昭和26年(ヨ)67号 判決

申請人 柳潤成

被申請人 筑邦貨物自動車株式会社

一、保証 無保証

二、主  文

被申請会社が昭和二十六年八月十日附で申請人に対してなした解雇の意思表示の効力を停止する。

申請費用は被申請人の負担とする。

三、事  実

申請人は主文同旨の判決を求め其の申請の理由として次の通り述べた。

被申請会社は久留米市において貨物自動車による一般貨物運送業を営む者で申請人はその会社の従業員であり自動車免許を受けて運転業務に従事する者であるが昭和二十六年八月十日被申請会社は申請人が、同年七月五日久留米市警察署に賍物運般の被疑者として検挙され当時新聞紙上に報道されたことを理由として被申請会社の信用を著しく失墜し営業上多大の損害を与えたものとして同日附申請人を解雇する旨通告した。抑々申請人は右検挙取調後犯罪の嫌疑なしとの理由で福岡地方検察庁久留米支部で不起訴処分となつたものであるが、前示報道は申請人の勾留中になされ釈放後被申請会社が申請人を解雇するとの風評がなされていたので、申請人は被申請会社に対して就労方を申入れ同会社本町支店においてこれを交渉したところ、同支店長村田定太郎は「新聞紙上にさわがれているので早急には取計らい難いが会社重役とも相談の上善処する」旨申述べていたが、同年七月二十日附を以て「関係者は此の際一応退社することが円満解決の途である」との右支店名義の書簡を申請人の義弟で被申請会社従業員青松邦男に托して来たが申請人は直ちに右支店を訪れ退社の意思なき旨を告げ其の後も交渉を続けたが、結局前示の如く八月十日附で解雇の通告を受けるに至つたものである。

尤も新聞紙上には申請人の被疑事実は恰も確定的犯罪の如く報道されたものであり、このような人権を無視した無責任な新聞報道には呆れる他ないが、被申請会社がこの報道を以て直ちに「会社の信用を著しく失墜し営業上打撃を受けた」となすのは余りにも主観的で、これに依つて会社が実質的に如何程の受註減を来したかは勿論申請人の知る由もないが一従業員を解雇させねばならぬ程重大な影響があつたとは常識上からも経験上からも考え及び得ぬことである。然るに被申請会社は飽く迄も信用問題だけで解雇と云う労働者にとつて致命的な処分を強行しようとするのは余りにも酷と謂わなければならぬ。

申請人は昭和二十一年十月被申請会社に就職以来終始会社の為に営々として働き、その間一囘の運転事故もなく会社第一顧客大事に勤め、出勤率も会社内で最も良好であつたものと思うが被申請会社においても右多年の努力は解雇通告書の中において暗に認めているところである。然らば対外的信用の一時的失墜の懸念から一片の通告を以て申請人を解雇することはまことに不当である。現在多数の失業者のいる巷に斯くの如くして放り出されることは生活の途をたゝれ餓死に追いやられるに等しく事態緊急を要するのでとり敢えず本件仮処分申請に及んだと陳述した。(疏明省略)

被申請人訴訟代理人は本件仮処分申請を却下する。申請費用は申請人の負担とする。との判決を求め、答弁として被申請人が久留米市で貨物自動車による貨物運送業を経営するものであり、申請人が其の自動車運転者として従業員であつたことは認めるが其の余は否認すると述べ、被申請人の主張として次の通り陳述した。被申請人は申請人が昭和二十六年七月五日被申請人の貨物自動車を勝手に使用運転して被申請人からの命令もないのに同僚から依頼された鉄屑を運搬したと云うことが判明し、而もそれは被申請人の顧客より委託された鉄屑を途中で窃取したものから頼まれて運搬したのであつて、久留米市警察署より賍物運搬の嫌疑を受け十日間拘置所に勾留された事実が当時の新聞紙に発表され、被申請人としてはそれが犯罪になるかならぬかは聞知しないが顧客に迷惑をかけ信用を失墜するところが十分にあり、此の事は被申請人の従業員就業規則第六十三条に該当し解雇は当然なさるべきものであるので、労働基準監督署とも協議の結果申請人を解雇したのであつて何等申請人に異議はないところである。

申請人は犯罪にならなかつたから解雇も無効だと主張しておるが、右就業規則では必ずしも犯罪の成否とは関係ないのである。申請人が被申請人の従業員としての功績に鑑み法律上の義務はないが予告手当をも支給しようとしたが受領を拒むので現に供託中である。叙上の理由で申請人の仮処分申請は理由がないと述べた。(疏明省略)

四、理  由

被申請人が久留米市で貨物自動車による貨物運送業を経営するものであり、申請人が其の自動車運転手として従業員であるところ、被申請人は昭和二十六年八月十日附申請人に対し解雇の意思表示をしたことは当事者間に争がない。而して右解雇が就業規則の適用による解雇であることは被申請人の主張自体に徴して明であるから先ず就業規則に規定された解雇事由の内容、次に右事由該当事実の存否並に就業規則適用の当否について判断する。

成立に争ない乙第一号証の一、二の記載に徴すると、就業規則第六十三条には、(一)已むを得ず事業上の都合に依るとき、(二)精神又は身体に故障があるか又は虚弱、老衰疾病のため業務に堪えられずと認めたとき、(三)不都合の行為があつたとき、(四)其の他前各号に準ずる程度の已むを得ぬ理由があるときの一に該当するときは三十日前に予告するか又は三十日分の給与を支給した上解雇する旨規定してあることが認められる。而していやしくも法的拘束力を有する就業規則の適用として解雇がなされる以上解雇事由の存否の認定、情状の判定等は使用者の自由裁量に委さるべきものではなく使用者は客観的に妥当な就業規則の適用をなすべき義務があり従て其の適用を誤つた場合には其の解雇は、就業規則違反として無効であると謂わなければならない。

被申請人は解雇事由の該当事実として申請人が被申請人からの命令もないのに同僚から依頼された鉄屑を運搬し、而もそれは被申請人の顧客より委託されたものを途中で竊取した者から頼まれて運搬したものでありこれがため申請人は賍物運搬の容疑者として勾留され其の事が当時の新聞紙に報道された為被申請会社の営業上の信用を失墜する憂があつたからだと主張し、申請人が其の主張の如く賍物運搬の容疑者として逮補勾留されその事が当時の新聞紙に報道されたことは成立に争ない乙第二号証の一、二の記載に依り明かであり、此の新聞紙上の報道が被申請会社の営業上の信用にマイナスになつたことは容易に推察されるところである。そこでこのことが前示就業規則違反として解雇の事由となり得るかどうかについて考察する。被申請人は就業規則第六十三条の何号に該当するかを明に主張していないが、右のような事情からして同条第三号若くは第四号に該当するものとの認定に因つたものであろうことは大体推認され得るところである。然し乍ら申請人は、申請人に対する前示容疑事件が其の後不起訴処分に付された旨主張し、これについて如何なる理由に基く不起訴処分なりやの疏明は尽されていないが、被申請人提出に係る乙第三、第六号証の記載を以てしても輙く嫌疑十分なりとの断定は得難いところである。尤も被申請人は右容疑事件の犯罪としての成否は問わぬ旨極力弁疏しているが此の事は解雇の決定につき相当考慮されるべき問題である。抑々懲戒的意味を有する解雇は従業員から絶対に反省の機会を奪う最も重い処分であり、本件就業規則第六十三条の当該規定も其の意味から相当高い程度の不都合の行為若くはまことに已むを得ぬ理由あるときに限らるべきである。本件の場合申請人は前記容疑事件が犯罪の嫌疑がなかつた為か或は犯罪性が稀薄であつた為かに因り結局不起訴処分に付されたものであり、其の後申請人は犯罪の嫌疑がかゝつたことを強く反省しこれを厳しい練磨の教訓と考え誠意将来における努力を誓つていることは成立に争ない乙第三号証(上申書)に依り明白である。而も申請人が相当長期間に亘り被申請会社の従業員として自動車運転の業務にたずさわり現在に至る迄一囘も業務上の事故なく、真面目に働いて来たものであることは成立に争ない甲第三号証の記載に依り容易に認められるところである。よつて右のような諸般の事情を斟酌すれば前記就業規則の規定に該当するものとは到底認め難く被申請会社が対外的信用を憂うる余り、他に適当な懲戒措置をとることなくして、一挙に申請人を解雇に処すると云うことは被申請人よりの賃金によつて僅かに生計を維持している申請人に対してまことに苛酷であり、就業規則の適用上妥当を欠くものであり従て右解雇は就業規則の恣意的解釈に基く被申請人の一方的措置と認めらるべきである。この点被申請人提出に係る乙第四号証(解雇予告除外認定申請書)に依れば労働基準監督署と協議の上予告除外認定を得て解雇手続をとつたことが認められるが此の事をもつて解雇の妥当性を断定する資料とはなし難い。従つて被申請人が申請人に対してなした本件解雇は結局就業規則に違反するもので無効であると謂わなければならない。

そこで本件仮処分申請は一応其の要件を具備しているものと認められるからこれを認容し申請費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する次第である。

(裁判官 彌富春吉)

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